涼を求めて、金魚を買おうと思い立った。
スーパーに行き、水草やエアーと共に金魚を選んだ。 レジを待つ私の後ろに、両手に一つずつもんぺを持った高齢のご婦人がこられた。 ひとつは白地に紺の絣模様、もう一つには赤い模様が入っていた。目線が合ったわたしに「どっちがよかかな」と尋ねられた。「赤がいいと思いますよ」と答えると 「私もこっちがよかと思うとばってん」 「では、赤い模様で」と、レジの人が金額を打ち込んだ。ずいぶんと迷い、ほんの少し赤い模様の入った「もんぺ」を買ったこのご婦人を私は可愛いと思う。
街はカラフルなファッションに身を包んだ若者で溢れている。欲しいものが好きなように買える今の時代。 このご婦人が彼等と同じ年代の時を想像する。「欲しがりません。勝つまでは」のスローガンがあった。お洒落をしたいと思っても出来ない時代だった。
スーパーを出るご婦人の後姿があった。 嬉しそうに帰る麦藁帽子をかぶったその姿に、赤い模様の入った「もんぺ」をはき、野良仕事に精を出す姿が目に浮かぶ。お元気で、と祈る。 ほのぼのとさわやかな気分になった。金魚も涼しげに我が家の玄関先で泳いでいる。
朝日新聞8月7日の朝刊に載りました。 しばらくの間、広島長崎を通して日本は、平和への祈りで満たされます。